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耐火物とともに歩むモールドパウダーの歴史

2025.05.30
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耐火物とともに歩むモールドパウダーの歴史

2025年に創業150周年を迎える品川リフラクトリーズ。耐火物のトップメーカーとして知られる同社ですが、実はモールドパウダーのメーカーとしても高い技術力と信頼性を持ち、世界でその存在感を発揮しています。

連続鋳造用モールドパウダーとは高温で溶かした鋼を流し込む「鋳型(モールド)」の中に添加する粉末、もしくは顆粒形状の潤滑剤です。溶けた鋼の表面を冷めにくくしたり、鋳型と鋼片間のすべりをよくして接触を防ぐなど重要な機能を持ち、高品質な鋼材を効率よく生産するために必要不可欠な材料です。 しかし、超高温という特殊な環境下で安定した機能を提供するモールドパウダーの開発は容易ではありません。そのため世界でも耐火物と両立してモールドパウダーの開発・製造を行っているメーカーは珍しく、日本国内では品川リフラクトリーズのみとなっています。※1

※2025年5月現在の情報です

国産モールドパウダーの始まりは、高度経済成長を迎えた1970年代

日本の鉄鋼業界に、連続鋳造(れんぞくちゅうぞう)と呼ばれる技術が初めて導入されたのは1955年のこと。連続鋳造は、溶けた鋼を連続で鋳型に注ぎ続けて冷却し、半製品を取り出す方法で、それまで主流だった造塊方法よりもスピーディーに大量生産ができ、コストダウンにもなる画期的な方法でした。

その後、1960年代になると日本は高度経済成長期を迎え、建設ラッシュによる鉄の需要が飛躍的に増加します。増加する需要に供給を追いつかせるため、多くの連続鋳造機がこの時期に稼働を開始しました。

連続鋳造機の増加に伴い、安定した品質で溶けた鋼を固めるために必要なモールドパウダーの需要も一気に増えましたが、当時国内に流通していたモールドパウダーは輸入品のみ。輸送コストやリードタイムが少なく、扱いやすい国産モールドパウダーの開発が望まれたことから、品川白煉瓦株式会社(現在の品川リフラクトリーズ株式会社)と日本鋼管株式会社(現在のJFEスチール株式会社)の共同で1971年に開発を開始しました。 その3年後の1974年、品川白煉瓦守山工場の製造プラントが稼働し、本格的な製品供給を開始します。

生産性と効率が求められた1980年代

1970年代に起きた2度のオイルショックの影響で、鉄鋼業の製造コストと鉄の価格が大幅に高騰し、世界的に鉄鋼需要が低迷しました。生き残りをかけた鉄鋼メーカーにとって製造コスト削減は必須となり、1980年代にはエネルギー効率を高めるための連続鋳造機の導入が積極的に進められました。その結果、全鋼塊生産量に対する連続鋳造での生産比率は90%に達しました。

技術改良により連続鋳造機の鋳造スピードが向上するにつれ、高速鋳造でも安定的な操業と鋳片の品質を保てるよう、モールドパウダーにもさらに高品質なものが求められるようになります。

こうした時代背景からモールドパウダーの技術開発が盛んに行われるようになり、品川リフラクトリーズでも、当時世界最高速を記録したスラブ高速鋳造用モールドパウダーや、中炭素鋼用モールドパウダーをはじめとするさまざまなモールドパウダーが開発されていきました。

より高品質な鋼材に向けて顆粒モールドパウダーが登場した1990年代

1990年代には高速鋳造技術がさらに発展し、生産量だけでなく鋼品質の厳格化も進みました。さらに、粉末状のモールドパウダーの弱点である飛散性の高さ、装置への自動供給の難しさなどを解決するために、モールドパウダーの顆粒化が進みます。顆粒にすることでモールドパウダーの発塵を抑制するのみならず、投入時のばらつきを抑えて鋳造中の冷却ムラや潤滑不良を減らせるほか、一定の粒度で均一に溶けるためより鋳造条件を安定させることができるようになりました。

品川リフラクトリーズでも、顆粒形状のモールドパウダーを開発し、その実用化に成功しました。

技術革新が続き多様な製品が登場した2000年代

2000年代に入ると自動車の燃費性能向上に貢献する高張力鋼板や、電気自動車、小型家電の開発が進み、高性能なモーターや発電機には欠かせない電磁鋼板などの高機能な鋼材の需要が高まります。また、90年代から引き続き高速鋳造や品質向上による生産性が要求されていました。
 
このようなお客様の製造ニーズに答えるべく、品川リフラクトリーズはさまざまな新商品開発を進めていきます。独自製品として、従来よりも著しく粘度が高く、連続鋳造のブレークアウトや鋳片割れを防ぐ超高粘度モールドパウダー「PRIOS」シリーズは、今もなお多くのお客様に愛されるベストセラーとなりました。現在では環境負荷を低減するため、フッ素を使用しない「PRIOS」の他に、中炭素鋼を高速鋳造する際の「割れやすさ」に対応した「REVIX」や、高Al電磁鋼板用の「SIPS」など、革新的なモールドパウダーを次々と開発し、市場で大きな存在感を放つようになります。

これからの未来に向けて

2015年9月に国連本部にて開催されたサミットにおいて、2030年までに持続可能な世界を実現するための17のゴール(Sustainable Development Goals:SDGs)が採択されて以降、企業は単なる技術力や生産性向上にとどまらず、SDGsの観点からも社会的責任を果たすことが求められるようになりました。鉄鋼製品もその例外ではなく、製造工程の低エネルギー化や、軽量で強度の高い鋼板を開発することで、環境負荷の低減に大きく貢献することが可能です。

モールドパウダーは鋳造の過程をサポートして高品質な鉄鋼製品を生産し、鋼材のひび割れなどの欠陥率を低減することに密接に関わっています。品川リフラクトリーズはモールドパウダーメーカーとしても、こうした社会的要請にも応えるべく、技術開発に日々励んでいます。

参考文献: 品川技報 2022年 No.65
「品川モールドパウダー50年の歩み~Something New~」伊藤純哉著